第1章マニュアルの目的と基本方針
このマニュアルの役割
個別指導では、受講生の行動的な成長だけでなく、心の揺れにも伴走する必要があります。
本マニュアルは、講師が迷わず動けるよう、次の3ステップを軸に設計されています。
- 早期発見―気づく
小さな違和感を拾い、「メンブレ・うつ症状の芽」を見逃さない。 - 適切対応―支える
発生時はスピード優先。24時間以内にZoomや電話で顔か声を合わせ、安心を届ける。 - 回復伴走―育む
行動・感情・再発予防の3本柱で、“もう一度走れる自分”を作る。
この3ステップを押さえることで、受講生の挫折を最小限に抑え、継続的な成長と自己効力感の回復を実現できます。
なぜ「メンブレ対応」が重要なのか?
メンタルブレイクが発生すると、わずか数日で以下のリスクが連鎖します。
リスク | 具体的な兆候 |
行動停止 | 週報未提出・LINE未読スルー・アポキャンセル |
信頼関係の崩壊 | 自己否定・他責発言・「見放された?」発言 |
成果停滞 | 行動量ゼロ→学習定着ゼロ→サポートの意義が薄れる |
POINT:
初期段階で“違和感”に気づき、声をかけるだけで重症化を防げます。
早期発見・早期対応こそが最大の防波堤です。
講師が意識したい基本マインド
- 寄り添い>解決
まず感情を受け止め、安心感を作ることを最優先。アドバイスや指導はその後。 - 先手必勝
違和感に気づいたら、24時間以内に必ずリアクションする。LINE→Zoom提案など、スピードを重視。 - 相談しやすい空気づくり
「どんな質問でも歓迎!」と日常的に伝え、受講生が声を上げやすい関係性を築いておく。 - 抱え込まない
講師一人で抱えず、必ずチャットワーク等でチームに共有し、組織として動く。
このマニュアルを通して目指す姿
「気づく→寄り添う→共に乗り越える」講師となり、
受講生の心身の成長を一緒に支える存在を目指しましょう。
第2章メンタルヘルスの基礎知識
章の目的
この章では、「一時的な落ち込み」と「専門的なケアが必要な状態」を正しく区別し、
講師がどこまで伴走し、どこから医療受診を勧めるべきかを判断できるようになることを目指します。
受講生を守るためには、必要なときに「専門家につなぐ」勇気が不可欠です。
メンタル状態の区別表
区分 | 主な症状 | 継続期間の目安 | 講師が取るべきスタンス |
一時的な落ち込み | 軽い無気力・気分の波 | 1〜3日 | 課題のハードルを下げて様子を見る |
うつ症状 | 興味喪失・強い疲労感・集中困難 | 2週間以上 | 休養を最優先し、励ましは控える |
うつ病・適応障害 | 睡眠・食事・仕事・学習に支障 | 数週間〜 | 医療機関受診を即提案、受講休止を推奨 |
判断基準のポイント
- 一時的落ち込み
通常の生活リズムは保てている。数日で自然に回復することが多い。
→課題量を減らして様子見+ポジティブな声かけを意識します。 - うつ症状の可能性
興味・関心が薄れ、疲労感が強く、明らかに行動が鈍くなっている。
→無理に励まさず、まず休養を最優先する姿勢を取ります。 - うつ病・適応障害の可能性
日常生活(食事・睡眠・仕事・勉強)に明確な支障が出ている。
→講師判断で抱えず、「診療内科などの受診」を必ず提案します。
まとめ
講師は治療者ではありません。
役割は「早めに専門家へつなぐこと」です。
専門的なケアが必要な場面では、
「一緒に考えましょう」ではなく
「専門家と一緒に考えていきましょう」というスタンスに切り替えましょう。
【第3章事前予防と早期発見】
3-1初回面談・グループワークでの教育
▼なぜ教育が重要なのか?
初期段階で「感情の揺れは自然なもの」「相談してもいい」という文化をインストールすることで、メンブレ発生率を劇的に下げることができます。
受講生自身に「落ち込んだらすぐ言っていいんだ」と許可を出しておくことで、悪化する前にSOSが出せるようになります。
施策 | 目的 | 具体的な実践例 |
失敗は経験値と刷り込む | 過剰な成功期待を防ぎ、挑戦しやすくする | 「最初の10回は練習ラウンドだから、むしろ失敗大歓迎です!」と最初に宣言する |
感情の波は自然なものと教える | 気分の浮き沈みへの不安を減らす | 「やる気が出ない日があって当然です。成長曲線は波打つもの」と伝える |
困ったら相談する文化を作る | 援助を求めるハードルを下げる | 「LINEは止まったらすぐ送ってOK!悩んだら即ヘルプを出す方が賢い」と繰り返し伝える |
3-2初回面談での予兆チェックリストとタイプ別対応
受講生それぞれの「メンブレリスク」を可視化し、講師が先回りしてフォロー計画を作るためのものです。
面談中の小さな発言や反応を観察し、「リスクタイプ」としてタグ付けします。
▼リスクタイプ一覧
タイプ | 典型フレーズ・様子 | 背景に潜む認知の歪み | 初手対応 | ワンフレーズ例 |
比較・ 自己価値低下 | 「同年代はもっとできてる」 「他の受講生は○○」 | 白黒思考・ 過度な一般化 | 過去の本人との 比較に切り替える | 「比べるのは昨日の自分だけですよ!」 |
完璧主義 | 「中途半端はイヤ」 「まだ準備ができていない」 | べき思考・ 拡大解釈 | 60点提出文化を教える | 「まずドラフト版でOKです!」 |
判断不安 | 「A/Bどっちが正しい?」「何が正解ですか?」 | 感情的決めつけ | 選択肢を絞って選ばせる | 「ラクに動ける方を選んで正解!」 |
自己否定 | 褒めても「自分なんて…」「僕にもできるのか?」 | マイナス思考・ 過小評価 | 努力の事実を 具体的に認める | 「続けたこと自体が素晴らしい!」 |
トラウマ反芻 | 過去失敗を何度も振り返る | レッテル貼り・ 拡大解釈 | 共感・受容からスタート | 「辛かったですね。 まず安全な場で話しましょう」 |
目標不明瞭 | ゴールがあいまい、 言葉に詰まる | フィルタリング・ 動機の空白 | Why深堀りを実施 | 「理想が叶ったら 一番嬉しいことは何ですか?」 |
他責思考 (顧客思考) | 購入者としてやってもらって当然というマインド | べき思考 | 行動するのは自分を教育 | どんなに素晴らしい教えも 「実行しないと成果に繋がりません」 |
▼補足:認知の歪みとは?
認知の歪みとは、「物事の受け取り方に偏りがあり、自分を必要以上に苦しめる思考パターン」のことです。
受講生の「見えないメンタルリスク」を早期発見するために、以下を参考にしてください。
認知の歪み | 説明 |
白黒思考 | 成功か失敗か、0か100でしか物事を捉えられない思考。 |
過度な一般化 | 一度の失敗を「いつもダメ」「絶対ムリ」と広げて捉える思考。 |
マイナス思考 | 良いことがあっても否定し、悪い面だけを見る思考。 |
結論の飛躍 | 根拠もなく「きっとこうなる」と決めつける思考。 |
べき思考 | 「〜であるべき」と理想像を押し付け、自分を苦しめる思考。 |
感情的決めつけ | 感情だけを根拠に現実を決めつける思考。 |
拡大解釈と過小評価 | 小さな失敗を大きく捉え、成功を小さく見積もる思考。 |
レッテル貼り | 一度の失敗で自分や他人に「ダメな人」というレッテルを貼る思考。 |
個人化 | 自分と関係ない失敗まで「自分のせい」と考える思考。 |
フィルタリング | ポジティブを無視し、ネガティブだけを拾い上げる思考。 |
3-3揺らぎやすいタイミングと観察ポイント
▼ここを見逃すと、急速にメンブレが進行します。
「なんとなく最近元気ないな」と感じたときは、だいたいこのリストのどこかに当てはまります。
特に週報・LINEの頻度や温度に細かく注目しましょう。
タイミング | 揺らぎやすい理由 | 講師が取るべきアクション |
部門接続時 | 達成感→燃え尽き・惰性感 | 新たな小目標を一緒に再設計し、「ここからが本番」と未来トークで再点火 |
初デート直前 | 緊張と恐怖から回避行動 | 「緊張するのは当然」と共感し、ハードルを下げる声掛けをする |
初アポで断られた直後 | 自信低下、無力感増加 | すぐに声かけし、失敗を肯定的にリフレーミングする 行動したこと自体に目を向けさせる |
GW/オフ会/LINEで 他受講生の成功を見た | 他者比較で自己否定 | 成長ペースは個人差があることを都度リマインドする |
週報未提出が2週続いた 週報の課題が2週間変わっていない | 罪悪感→行動停止スパイラル | ハードルを一時的に下げ、「1ミリの行動」を提案する |
仕事・学業の繁忙期 | ストレス過多 ※裏に、モチベ低下が隠れていることがある | 「今は耐える時期」とリフレーミングし、ペース調整を提案 ※モチベ低下の場合は、目標の再確認で火をつける、また個別指導期間中に理想の未来が手に入らないと焦らせる |
講師への不満発言が出た直後 | 信頼不安→孤立感増加 | 温度感を合わせ、即Zoomや電話で誤解を解消する |
連続して失敗したとき | 自己効力感の大幅低下 | 「失敗は成功の通過点」とストーリーテリングで励まし、行動を止めない |
初回面談やグループワークでの教育、そして日々の小さな観察と声かけが、受講生の「メンブレリスク」を事前に減らし、万一発生しても早期対応できる土台を作ります。
【第4章発生時の迅速対応フロー】
▼発生とみなす基準
以下に該当した場合、受講生は「心が止まりかけている状態」と判断し、迅速対応を開始します。
発生認定条件 | 説明 |
週報が2週連続未提出 | 単発でなく継続して未提出が続く場合は危険サイン |
講師からのメッセージに対し、1週間返信なし | 内容が「要返信」だったにも関わらず未返信 |
面談時に行動量ゼロ、または涙・激しい動揺があった場合 | 明確に心が止まっている兆候 |
▼発生時24時間対応フロー
発見から24時間以内に、以下のステップを必ず踏みます。
STEP1.検知→チャットで優しく声かけ
【例文】
「最近お忙しいですか?無理しすぎていないか少し心配です!」
※注意:絶対に責めないこと。現状確認を優先します。
STEP2.Zoomまたは電話10〜15分確保
必ず顔か声を合わせます。文章だけのやり取りではケアできません。
【例文】
「少しだけお話ししませんか?気軽な感じで大丈夫です!」
STEP3.Zoom・電話中の流れ
1.安心づくり「ここで話すことに正解・不正解はないですよ」と伝える
2.徹底傾聴こちらからアドバイスせず、相手が気持ちを吐き出し切るまで待つ
3.共感する「それはきっと心も疲れてきているサインですね」など受容的に返す
4.小行動設定たとえば「週1回アプリだけ開く」など、小さな行動を一緒に決める
5.継続or休止の選択肢提示継続が難しい場合は無理せず休止提案も視野に入れる
STEP4.結果を運営に連絡
Zoom・電話終了後、チャットワークでいちろ宛に結果共有をお願いします。
【共有内容例】
「〇〇さん:休止希望(1ヶ月様子見)、Zoom対応済み」
▼質問リスト(Zoom・電話用)
- 最近のことで、少し大変だったことはありますか?
- 無理して頑張りすぎていないですか?
- 今、体調や気持ちの面で気になることはありますか?
- どんなサポートがあれば、少しラクになりそうですか?
【沈黙リカバリー質問】
「言葉にならなくても大丈夫ですよ。今、どんな感じの気持ちですか?」
※ポイント:質問→共感→小行動設定の順番を守る!
▼Zoom・電話の実際の会話例
【開始直後】
講師:「今日はお時間いただきありがとうございます!〇〇さんのペースで大丈夫なので、感じていることを自由に話してくださいね。」
【吐き出しを受け止める】
受講生:「なんか最近、やる気が出なくて…。」
講師:「そうだったんですね。それはきっと、心も疲れてきているサインかもしれませんね。」
【安心を作る】
受講生:「頑張らなきゃって思うんですけど…。」
講師:「その気持ちだけでも本当に素晴らしいですよ。無理せず、少しずつやっていきましょう。」
【小行動設定】
講師:「今週は、たとえば“週1回、アプリだけ開く”とか、すごく小さなところからでもOKにしませんか?」
受講生:「それならできそうです!」
講師:「素晴らしいです!一緒に、ここからまた始めていきましょう!」
▼ペース半減・休止提案テンプレ
【ペース半減提案】
「今は、ペースをぐっと落として、“週報3行だけ”とか“課題1つだけ”にしましょう。〇〇さんの回復を第一にサポートしたいです。」
【休止提案】
「ここから無理して続けるより、少し休んだほうが心のためにはいいかもしれません。〇〇さんが大丈夫だと感じたら、またいつでも再開できますよ。」
※「1ヶ月だけ休んで様子を見る」「週1タスクだけ続けてみる」など、柔軟な選択肢を一緒に考えます。
▼休止を検討する基準
以下に該当する場合は、休止も積極的に提案します。
- 本人から「休みたい」「しばらく距離を置きたい」という発言があった場合
- 抑うつ・極度の不安・身体症状などが強く、通常生活にも支障が出ている場合
- 「頑張ろう」よりも「もう無理」という感情表現が圧倒的に多い場合
- 医療機関受診が必要と判断された場合、もしくはすでに受診している場合
▼休止を選んだ場合の声かけ例
- 「今は“立ち止まる”選択もすごく勇気がいることです。焦らず、一緒にリスタートのタイミングを探していきましょう。」
- 「サポートは止まりません。〇〇さんのタイミングで、またLINEもらえたら嬉しいです。」
違和感を感じたら「24時間以内に顔か声を合わせる」ことを意識してください!
スピード感が、その後の行動・回復スピードを大きく左右します。
また、休止提案は逃げではありません。受講生の長期成長のための戦略的サポートだということを忘れずに対応しましょう。
【第5章回復支援と再スタート設計】
▼この章の目的
発生後に焦って通常ペースへ戻そうとすると、再メンブレのリスクが非常に高まります。
一度ペースを落とし、リハビリ的に小さな成功体験を積み直すことで、結果的に最短で完全復帰を目指します。
ここでは、受講生の「自己効力感の回復」を最優先に設計していきます。
▼回復支援の基本方針
- 焦らず、段階的にペースを戻す。
→「できた!」を小さく積み重ねる方が、心も行動も安定します。 - 本人主導で行動設定をする。
→受け身で課題を与えすぎず、選択肢を与えた上で本人に決めてもらう。 - 再発防止策を本人と一緒に言語化する。
→同じパターンに陥らないよう、セルフケアのスキルも育てていく。
▼回復プロセスの具体的な流れ
STEP1.復帰面談を実施(必須)
【タイミング】
本人から「再開したい」と意思表示があったら、24時間以内にZoom・電話で面談。
【面談内容】
- 体調や生活リズムの現状確認
- Why(目的意識)を軽く再確認
(例:「この挑戦を始めたときの想い、少し思い出してみましょう!」) - できそうな行動を一緒に決める
(例:「まず週報3行だけ」「まず週1回アプリだけ」など)
【ポイント】
▶︎大きな目標設定は禁止!
▶︎必ず“今すぐできる小行動”に落とし込む!
STEP2.リハビリ期間の設計
【基本ルール】
休止前のアクション量の50%以下から再開する。
【具体例】
- 課題:週2→週1に減らす
- アポ:月3件→月1件からスタート
【期間イメージ】
最初の2週間は“超低負荷”で様子見。
調子が戻れば徐々に通常ペースへ拡大する。
STEP3.感情ケアと小ゴール支援
【実践施策】
- Zoomまたは電話を週2回、15分だけでもOK
→「ちゃんと見てもらえている安心感」を届ける。 - LINEの頻度を普段より多めにする
→「変化に気づいてもらえた」体験が回復を加速させる。 - 7日以内で達成できる小ゴールを設定
→(例:「まず1回だけアプリを開く」「初回メッセージだけ送る」など)
【小さな成功体験の例】
- アプリ開封だけでも「すごい!」と伝える
- メッセージ送ったら「一歩踏み出したね!」と全力で称賛
- 「〇〇できた」よりも「〇〇しようとした姿勢」を褒める
▼休止中・リハビリ中に注意すべきこと
- 急にハードルを上げない
→調子が良さそうでも、最低2週は様子見が鉄則。 - ポジティブなリフレーミングを続ける
→失敗しても「これは準備運動だね!」など安心させる。 - リスクサインを本人と共有しておく
(例:「返信が3日止まったら、すぐ相談しようね」など)
回復フェーズでは、「再起動できた」成功体験を小刻みに積み重ねることが最重要です。
焦って通常運転に戻すのではなく、超スモールステップ×感情ケア重視でサポートしていきましょう。
【第6章講師自身のセルフケア】
なぜ講師自身のセルフケアが必要か
- メンタルサポートには、「見えない負荷」が日常的にかかります。
- 「自分は大丈夫」と思っている人ほど、無意識に消耗しやすい危険があります。
- 自分を守ることが、受講生を守り続けるための大前提です。
まず、自分自身のコンディションを最優先してください。
それが、長く支え続けるために絶対に必要な土台です。
講師が大切にしたい4つのセルフケア
①完璧な人間であろうとしない
- すべてを自分でやり切る必要はありません。
- 「完璧であること」よりも「真摯に向き合うこと」がサポート講師に求められる本質です。
- 知識やスキルでバトルする場ではありません。
どれだけ真剣に受講生に寄り添えるかが最も大切です。
真摯な姿勢こそが、代えのきかない信頼を生みます。
②自己開示を癖にする
- 得意・不得意を積極的に講師陣に共有しましょう。
- サポート講師のチームは、「何を話しても大丈夫」な安全地帯です。
- 苦手なことを隠さず開示することで、お互いを自然に支え合える文化が生まれます。
苦手を認め合えるからこそ、本当のチームになります。
③感情をためこまない
- モヤモヤ、イライラ、不安など、気持ちは必ず溜まります。
- そのまま抱え込まず、言葉にして外に出す習慣を持ちましょう。
(例:日報に書く、仲間に一言吐き出す、ノートに整理する)
感情の排出口を作ることで、自分をリセットできます。
④自分の「快」と「整う」を知っておく
- 自分が一瞬でリセットできる方法を日頃から把握しておきましょう。-好きな音楽を聴く-お気に入りのカフェに行く-自然に触れる-心地よい香りを嗅ぐなど
“自分を一瞬で整えられる手段”は、講師としての命綱です。
支えるためには、まず自分を支えられること。
そして、完璧であろうとするよりも、
「人間らしい講師」として、真摯に向き合うこと。
その姿勢こそが、受講生にとって何よりの安心となります。
【第7章医療機関受診が必要なケースと対応】
▼章の目的
この章では、受講生に医療機関の受診を促すべきタイミングと、適切な声掛け方法を明確に示します。
講師は医師ではありません。適切な場面で「専門家に橋渡しすること」が最大の役割です。
▼受診を提案するべき基準
以下のいずれかに該当する場合は、速やかに受診提案を行います。
状態 | 具体例 |
2週間以上続く抑うつ・無気力 | 「何をしても楽しくない」「ずっと疲れている」と訴える |
強い不安+身体症状 | 動悸・過呼吸・手の震え・発汗が頻発する |
ハイテンションとどん底気分が交互に出る | 異常なハイペース→翌週ほぼ連絡が取れない |
日常生活に支障が出ている | 仕事・学業・家事が継続できない状態 |
▼声掛けテンプレート(そのまま使える例)
【基本の提案文】
「〇〇さんの今の状態は、心と体がかなり頑張っているサインかもしれません。
一度、専門家(心療内科・メンタルクリニック)に相談してみませんか?
私たちは、〇〇さんのペースを尊重しながら、引き続きサポートしますのでご安心ください。」
【もし迷いがある場合】
「悩みすぎず、一度“プロに話を聞いてもらう”だけでも大丈夫です。
体と心の健康は一番大事なので、安心できる場所を一緒に探しましょう!」
▼受講生が不安がる場合の追加サポート例
- 「受診するかどうかは〇〇さん自身が決めて大丈夫です。」
- 「診断名がつくとか、何か決まるわけではなく、ただ相談だけでもOKですよ。」
- 「私も、〇〇さんを責めたりジャッジしたりする気持ちは一切ありません。」
→安心できる言葉を“先に”渡しておくことが大切です。
▼講師が絶対にやってはいけないこと
NG行動 | 理由 |
自分で診断名を断定する | 医療資格がないため |
薬や治療法を勧める | 医師の領域に踏み込む危険性がある |
「気合で乗り越えよう」と言う | メンタルダメージを悪化させるリスク |
▼実際の対応例(ケーススタディ)
ケース1:無気力が2週間以上続く受講生
- 状況:週報提出が2週連続止まり、Zoom面談でも「何もやる気が出ない」と涙。
- 講師対応例:
- 安心づくり:「ここで話すことに正解・不正解はないので、気持ちそのまま教えてくださいね。」
- 状態確認:「今、一番気になっている体や心の変化ってありますか?」
- 受診提案:「〇〇さんの心と体を守るために、一度専門家に相談するのもすごく良い選択だと思います。」
- 安心づくり:「ここで話すことに正解・不正解はないので、気持ちそのまま教えてくださいね。」
講師は、受講生を専門家に「バトンパス」する存在です。
支えるためには、「無理に頑張らせる」のではなく、
適切に休み、安全に治療へつなげる勇気が必要です。
受講生の未来を信じて、
**「一緒に乗り越えていきましょう」**というスタンスを忘れずに対応しましょう。
【第8章まとめ】
▼このマニュアルで伝えたかったこと
受講生の成長に寄り添う個別指導では、
「行動」だけでなく「心の揺れ」へのサポートも不可欠です。
受講生は、時に迷い、止まり、後戻りすることもあります。
それは「意志が弱いから」ではありません。
人間誰しも、チャレンジには心の揺らぎがつきものです。
だからこそ、講師に求められるのは、
「無理に引っ張ること」でも「厳しく叱ること」でもありません。
- 小さな違和感に気づくこと
- 感情に寄り添うこと
- 本人のペースを尊重すること
- 必要な時には専門家へつなぐこと
この4つを押さえれば、
どんな状況でも“伴走できる講師”になれます。
▼最後に
講師自身も、完璧である必要はありません。
大切なのは、
**「真摯に、受講生に向き合い続ける姿勢」**です。
迷ったときは、
「この人の未来を信じて、今、自分にできる最善を尽くそう」
この気持ちだけ忘れなければ大丈夫です。
困ったら、必ず一人で抱えずに、
チームに頼ってください。
私たちは、あなたのサポーターでもあります。